たまブレ、なるボケ

写真、音楽、映画、本、プロ野球。

知らない老夫婦と二言三言しゃべった

 JR函館本線白石駅
 そこは千歳線函館本線との乗り換えに便利な駅であり、札幌ドーム行きシャトルバスの発着場所でもある。

 電車が、その駅に着いたとき。
 
 老夫婦が乗り込んできた。
 ただの老夫婦ではない。

 Fの帽子をきっちりかぶり、メガホンを覗かせたトートバックを持ち、FIGHTERSのロゴの刺繍がバッチリはいったウィンドブレーカーをお揃いで着た老夫婦が乗ってきた。
 僕の脳裏に、さっきまで観ていた野球中継が蘇る。粘る吉川、安達のツーラン、ディクソン相手にあと1本が出ない打線。
 ああ、札幌ドームのスタンドで、この二人は悔しい負け試合を見届けて来たのだ。そう思うと悲しくて、僕はおじさんの顔をじっと見つめてしまった。その無遠慮な視線に気づいたおじいさんは、苦笑いを浮かべながら言った。

「負けちったよ」

 何だかとても悲しくなって、「見てました」と苦笑いしながら返すのが精一杯だった。おばあちゃんは「吉川がかわいそうだ」と言った。それで僕の悲しさはフルカウントになってしまったので、しばらく何も言えなかった。考えてから、言った。

「お疲れ様でした」

 高校の部活(放送局)のときから今もよく使う、便利なあいさつだ。でも、語彙力の乏しい僕にしては悪くないチョイスだったと思う。老夫婦は頷いて笑ってくれた。全然知らない人とファイターズを通して世間話ができたのは面白かったけれど、やっぱりなんだか悲しかった。

 電車が札幌駅に着き、ホームに降りた。ファイターズのユニフォームを着たたくさんな人々が、同じ表情を浮かべて降りていく。同じ電車に乗っていた敗戦見届け人は、何もあの老夫婦だけではなかった。ファイターズが負けた日の夕方の駅は、空気がいつもより少しだけ重く感じる。

 明日は勝ってくれ!5月16日。